人工膝関節全置換術(TKA)

歩くたびに膝の痛みを感じていませんか。
「階段の昇り降りがつらい」「立ち上がるときに痛む」「正座ができない」――。

こうした症状は変形性膝関節症が原因で起こることが多く進行すると日常生活にも支障をきたします。
人工膝関節全置換術(TKA:Total Knee Arthroplasty)はすり減った関節の表面を人工関節に置き換えることで痛みを取り除き歩行や生活動作を取り戻す治療法です。
技術の進歩により現在では安全性・再現性ともに非常に高い手術として確立されています。

1.人工膝関節全置換術とは

膝関節は大腿骨・脛骨・膝蓋骨から構成されます。
膝の周りにある軟骨や半月板は骨と骨の間でクッションの役割を果たしています。
加齢などで軟骨がすり減ると骨と骨が直接こすれ合い炎症や強い痛みを引き起こします。

手術では痛んだ軟骨や骨をミリ単位で整え、金属と高分子素材からなる人工関節を設置し滑らかな曲げ伸ばしを再建します。これにより関節の痛みは軽減し、歩行・立ち上がり・階段昇降などの動作が改善します。

2.当院の治療方針 ― 自然な動きを大切にした人工膝関節置換術

人工膝関節手術の目的は「痛みを取り除き、安定して歩けるようにすること」です。
そのために当院では一人ひとりの膝の形や動きを大切にしたキネマティックアライメント法(KA法)を採用しています。

従来の機械的アライメント法(MA法)は、脚全体の軸をまっすぐ整えることで安定性を高める長い歴史と実績を持つ標準的な方法です。 一方のKA法は「患者さんそれぞれの自然な膝の動きを再現する」ことを重視し靱帯のバランスや関節の傾きを本来の形に近づけ、自然な動作感を目指します。
当院では、MA法の確実性とKA法の自然な動きの再現性の両方を理解したうえで患者さん一人ひとりの状態や生活スタイルに最もふさわしい方法を選択しています。

3.当院におけるキネマティックアライメント法(KA法)の特徴

  1. 靱帯を温存し、もとの安定性を保つ
    膝の安定性を支える靱帯をできる限り残し、もとの張り具合を活かします。
  2. 自然な形とバランスを再現
    変形が進む前の関節角度に近づけ、無理な矯正を行わず自然な動作を重視します。
  3. 膝本来の動きを妨げない設計
    膝の微細なねじれ(回旋)を含めた滑らかな屈伸運動を再現します。

4.手術から退院までの流れ

  1. 診察・検査
    X線検査やCTで関節の状態を詳しく評価します。
  2. 術前計画
    靱帯バランスをもとに、最適な設置位置をミリ単位で計画します。
  3. 手術
    膝の前方を小切開し、KA法に基づいて人工関節を設置します。
    術中は膝の動きを確認しながら、曲げ伸ばし時のバランスを丁寧に調整します。
  4. 術後リハビリ(翌日~2日目)
    手術翌日から立位・歩行訓練を開始し、痛みをコントロールしながら可動域を拡大します。
  5. 歩行回復
    多くの方が術後3~5日で杖歩行が可能になり、1週間ほどで安定して歩けるようになります。
  6. 退院(目安:2~4週間)
    体力や生活環境に応じて調整可能です。ご希望に応じて入院を延長し、今後のロコモ対策として2か月ほどリハビリを行う方もいらっしゃいます。
  7. 外来フォローアップ
    退院後は定期的に検診を行い、X線検査や歩行機能を確認します。

5.リハビリテーション ― 術前から退院後まで一貫したサポート体制

各職種が連携し、術前から退院後まで一貫したリハビリ体制を整えています。

  • 術前リハビリ:筋力を高め、術後回復を早める準備を行います。
  • 早期リハビリ:手術翌日から起立・歩行訓練を開始します。
  • 可動域訓練:痛みに配慮しながら、膝の曲げ伸ばしを段階的に拡大します。
  • 筋力再建訓練:大腿四頭筋・臀筋を中心にトレーニングし、転倒を予防します。
  • 生活動作練習:階段昇降、車の乗降、しゃがみ動作など、日常生活を想定した練習を行います。

多くの方が術後2週間前後で自立歩行を達成し、1か月ほどで屋外活動を再開されています。

6.よくあるご質問(FAQ)

KA法は新しい手術ですか?
KA法は、MA法と並んで確立されつつある考え方で、世界的にも臨床研究が進んでいます。
どちらかが優れているというものではなく、患者さんの膝の特徴や生活スタイルに応じて最適な方法を選択することが大切です。
どのくらいで歩けるようになりますか?
多くの方が手術翌日から立ち上がり、3~5日で杖歩行が可能になります。
入院期間はどのくらいですか?
一般的には2~4週間ですが、希望に応じて延長も可能です。
安心してご自宅に戻れるよう、2か月ほど入院リハビリを続ける方もいらっしゃいます。
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